2013年2月19日火曜日

毛糸の誇りとアイデン-ニッティ

今年の作品第1号のArgoJamieson & SmithのShetland Aranという毛糸を使いました。フェアアイルでおなじみの毛糸メーカーですよね。私はまだ、フェアアイルに挑戦したことはないのですが、いつかは・・・という無謀な野望だけはいつも持っています。


それで、野望ついでにサイトをあれこれ見ていて、この毛糸を買いました。アランの毛糸は、50g玉がひとつ4ポンド(現在575円ほど)。そのなかにカラシ色っぽい糸があって、大好きな色なんだけど、なぜかそこだけ価格が£2.00って書いてある。2ポンド? なにかの間違い? 

そこで思いついた。試しにカートに入れてみよう(笑)。タイプミスならカートのなかでは正しい値段(4ポンド)で計算されるよね。だけど、カートに入っても値段は2ポンドのままだった。正確にはイギリス国内の付加価値税VATが差し引かれて、さらに安くなった(笑)。私はそのままレジに進んだのであった。

そんな経緯でお買い得に入手したこの毛糸、編んでみて思ったのが、「とっても素朴」ということ。カサカサしていて、モソモソしていて、まるで手紡ぎのように太さが変わっていくし、藁くずがとってもいっぱい挟まっていて、細かいゴミのようなものもくっついていて、羊と毛糸の中間のような感じ! 毛糸に挟まった藁くずを取り除きながら「これは君のおやつだったの? それとも昼寝用のベッド?」などと羊と対話しながら編むのは実に楽しいことでした。

そうして私にしては驚異的な早さで編み上がったカーディガンをブロッキングして、袖を通してみると、それはもう夢のような不思議な感覚。温かくて、しっかりと包み込んでくれる感じで、頼りがいがあって、丈夫そうで、長く飽きずに着られそうで。柔らかくて繊細な毛糸も大好きですが、私はこういう糸が好きなんだと初めて認識した瞬間でした。

さて、この感覚はいったい何なのか? 考えを巡らせていくうちに、それは「毛糸の誇り」なのかなと思うようになりました。自国で生まれ育った羊から毛糸を作る。次々と新製品は出さない。昔ながらの、スタンダードな毛糸をずっと作り続ける。

言い方を変えればそれは英国の誇りなのかもしれません。というか産業革命の誇り(笑)? ともあれ、翻って日本の国産羊毛はどうなんだろうということが今度は気になってきました。日本にも毛糸メーカーはいくつもありますが、恐らく原毛は多くの場合、日本産ではなさそう。ラベルにどこ産の羊毛を使ってますって、あまり書いてない気がする。よく知らないのですが、農産物と違って産地の表示は義務づけられてないよね? だけど、野菜や魚を買うときはどこ産の商品かとても気にするのに、身につける毛糸は?

気になり出すとけっこうとことん気になるタチなので、国産羊毛で毛糸を作っているメーカーがあるのではと思って検索してみました。個人レベルではありましたが、メーカーとしては見当たらない・・・(ご存じの方、どうぞ教えてください)。

手紡ぎの世界では知らない人はいない、京都の有名な原毛屋さん「スピンハウスポンタ」改め「スピナッツ」さんでは2011年から国産羊毛の取り扱いを始めました。スピナーの間では以前から国産羊毛も使われているようだけど、それがニッターまでは行き渡らない。流通量の問題? 品質的な問題? 採算の問題? うーん、モヤモヤするなあ。

記事が長くなってきちゃったので、この件は自分への宿題ということにしますが(モヤモヤしたままかい!)、もし自分がお金持ちだったら、国産羊毛の毛糸を製造販売したいという妄想がふくらみました。いろいろと問題は山積していそうですが。

編み物は日本ではまだ比較的新しい手芸です。明治9、10年に刊行された『童女筌』が日本で最初の編み物教科書だそうで、たた&たた夫さんのサイトで勉強しました(面白い!)。当時から、そして今でも私たちは主に外国からやってきた羊毛で編み物をしていますが、いつの日か、多くのニッターが、日本で生まれて日本の草を食べて育った羊から作られた毛糸で編み物を楽しめる日が来るといいなーと夢見ています。表題の「アイデン-ニッティ」とは、アイデンティティとニットを組み合わせたオリジナルの造語です(笑)。